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東京高等裁判所 昭和49年(行コ)58号 判決 1976年5月24日

東京都小金井市桜町二丁目一番五号

控訴人

石田仙太郎

右訴訟代理人弁護士

榎本信行

右訴訟復代理人弁護士

金井清吉

右訴訟代理人弁護士

大川隆司

高芝利仁

東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号

被控訴人

武蔵野税務署長

上條敏信

右訴訟代理人弁護士

上田明信

右指定代理人

平塚慶明

佐伯秀之

中川精二

右当事者間の昭和四九年(行コ)第五八号租税賦課処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。控訴人の昭和四一年分の所得税について、被控訴人が同四四年二月二八日付でした更正および過少申告加算税の賦課決定を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

控訴代理人は、次のとおり述べた。

一、仲介料について

一般に国有地の払下げ、国、公共団体への財産の売却については、国会議員、地方議会議員などの仲介、斡旋がないと交渉が進まないことは、常識とされている。とすれば、これらの人達に対する謝礼も財産売却についての必要経費とするのが当然である。本件についていえば、二子石邦雄、小野重雄に対する支払いは、両名が融資の斡旋、山岸袈裟重との交渉に尽力してくれたことに対する気持もあつたが、それは政治家としての両名の本来の仕事とは考えられず、控訴人の依頼の本旨もそこにはなかつたのであつて、売却先である郵政省との結びつきを維持しておくことを主眼としたのである。こうした事情からして、右両名への金員の支払いは、必要経費とみるべきである。

二、契約締結促進費について

土地の利用法を大別すれば、現実に使用する場合と担保価値として利用する場合とがある。しこうして、地上建物を収去する費用が経費として扱れるのであれば、抵当権を抹消するに必要な諸費用も譲渡経費とみるべきである。

三、過少申告加算税について

本件の場合、仮りに買戻金について取得価額とならないとしても、それを取得価額としたことは、法的に素人の控訴人としてやむをえない事情があり、国税通則法第六五条第二項にいう「正当な理由」があるものというべく、加算税を課すことはできないといわなければならない。

被控訴代理人は次のとおり述べた。

一、仲介料について

控訴人の主張する謝礼金については、受領した者の領収書等もなく、金額算定の根拠も不明確で、その支払いの事実は被控訴人にはわからない。仮りに支払いの事実があつたとしても、その趣旨は、融資の斡旋および山岸との交渉に対する謝礼の意味であつたと判断されるので、売却のための必要経費と認めることはできない。

二、契約締結促進費について

仮りに控訴人がその主張の如き支出をしたとしても、抵当権抹消のために抵当権者に支払つた利息制限法所定の利息を超える利息等の支払いや仮登記抹消のための仮登記権利者に対する金員の交付は、究極のところ控訴人の過去の債務につきその清算として支出されたものであるから、本件土地の譲渡収入に対応する費用としてみるべきではない。なお、右支払金については、控訴人は、不当利得返還請求権を有しているというのであるから、実質的負担がなく、その点からいつても、費用には当らない。

三、過少申告加算税について

国税通則法第六五条第二項にいう「正当な理由がある場合」とは、附帯税たる過少申告加算税が租税申告の適正を確保し、租税債権確定のために、納税義務者に課せられた税法上の義務不履行に対して賦課される性質を有するものであることからすれば、かゝる附帯税を課することが不当もしくは酷ならしめるような事情の存する場合を指称するものと解すべきである。従つて控訴人が法的に素人というだけでは右にいう正当な理由に該当しないことは明らかである。

証拠として、控訴代理人は、甲第一ないし第五号証を提出し、原審および当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、乙第一ないし第五号証の成立は、いずれもこれを認めると述べ、被控訴代理人は、乙第一ないし第五号証を提出し、原審証人田中準三の証言を援用し、甲第一号証、第四、五号証(第四号証は原本の存在とも)の各成立を認め、第二、三号証の成立はいずれも不知と述べた。

理由

一、当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当であると判断するものであつて、その理由は、次のとおり付加もしくは削除するほか、原判決理由の説示と同一であるから、こゝにこれを引用する。

(1)  原判決二八枚目表二行目冒頭および同裏五行目各「原告本人尋問」の前に「原審および当審における」を加える。

(2)  原判決二八枚目裏二行目「二子石」の次に「および小野」を加え、同三行目「謝礼には」を「謝礼は」と、同三、四行目「謝礼の意味も含まれていた」を「謝礼を主眼とするものである」と、同六行目「適確」を「的確」とそれぞれ訂正する。

(3)  原判決三〇枚目表七行目末尾に「控訴人は、建物の収去費用と対比して抵当権抹消に要した諸費用も譲渡に要した費用とみるべきであると主張するが、その理由のないことは前叙のとおりである。」を加える。

(4)  原判決三二枚目表一行目の次行に「三、控訴人は、買戻金を取得金額としたことは、法的に素人の控訴人としてやむをえない事情があり、国税通則法第六五条第二項にいう「正当な理由がある場合」に当ると主張するが、右にいう「正当な理由がある場合」とは、例えば、税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い修正申告し、または更正を受けた場合あるいは災害または盗難等に関し申告当時損失とすることを相当としたものがその後予期しなかつた保険等の支払いを受けあるいは盗難品の返還を受けたため修正申告し、また更正を受けた場合等申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により納税者の故意過失の基かずして当該申告額が過少となつた場合の如く、当該申告が真にやむをえない理由によるものであり、かゝる納税者に過少申告加算税を賦課することが不当もしくは酷になる場合を指称するものであつて、納税者の税法の不知もしくは誤解に基く場合は、これに当らないというべきである。従つて控訴人の主張は理由がない。」を加え、同二行目冒頭「三」を「四」と訂正する。

(5)  原判決三二枚目表七行目末尾に「また過少申告加算税の賦課決定にも違法はない。」を加える。

二、よつて原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、民事訴訟法第三八四条第一項第九五条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡田辰雄 裁判官 中川幹郎 裁判官小林定人は転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 岡田辰雄)

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